見えない敵にマシンガンをぶっ放せ

廊下にはたばこの匂いが充満していた。思わず息を止めた。

別にたばこの匂いは臭いとは思わない。

でも、この匂いに慣れてしまうのは少しだけもったいないような気が、ずっとしている。

なんでかわからんけど。

受け入れることって難しいようで簡単だから、すぐに慣れちゃう。なんか悔しい。

そうだ、悔しいんだよな。たばこの匂いって。

歌舞伎町の汚いビルはそんな悔しさと、廃れた殺気で満ちていた。

エレベーターは異常なほど早く閉まって俺の体にぶつかってくる。

階段を使おうと思ったが、滴れている液体からは絶対尿の匂いがしている。

部屋の窓を開ければラブホ。窓が開いている部屋がいくつかあるので、見せつけてくる奴らも一組ぐらいはいるんじゃないかと期待してみる。

ああ、

 

そういえば俺玲一郎さんのこと裏切ってた。

他人に申し訳なくて泣いたのって意外と少ない。

思い出せるのは小学校と中学の最後の試合。まああれはみんなも泣いてたしな。

だからリンゴ辞めるときあんなに泣いたのは本当に珍しい。

あの時は玲一郎さんに申し訳なくてひたすら泣いていた。

周りには誰も泣いている人はいなかった。夜の住宅街の路地裏で俺だけが子供みたいに泣いていた。